はじめに|「その人がいないと回らない」状態が生まれる背景
Excelやスプレッドシートを使って資産を管理していると、 気づけば「Aさんしか更新できない」「仕組みがブラックボックス化している」という状況になっていませんか?
属人化は特定の業務が人に依存してしまう状態のことを指します。見えないコスト・リスクを生む原因にもなります。
本記事では、属人化がなぜ起きるのか、どんな問題を引き起こすのか、 そして小さな組織でもできる解消のヒントを紹介します。
属人化とは?
属人化とは、ある業務の手順や情報が一部の人に依存している状態を指します。当人以外ではその業務を行えなかったり、ノウハウやコツを当人しか知らないことでアウトプットの品質にばらつきが出ることになります。これは大企業だけの問題ではなく、むしろ少人数の中小企業ほど起きやすい傾向があります。
また、ノウハウを知っている人が退職してしまい、その業務やシステムを改善したり改修することができなくなることもあります。
属人化が起こる理由は様々で、人に任せるより自分でやったほうが早いという考えがあったり、引き継ぎたいが引き継ぎ時間も引き継げる人もない、といったように個人の意識や組織風土など多くの要因があります。
属人化が発生する典型例
- Excel台帳のマクロや関数を作った本人しか中身が理解できない
- 資産やライセンスの情報が特定の担当のPCにしかない
- 更新作業のルールが文書化されていない
属人化がもたらす3つのリスク
属人化は”引き継ぎの難しさ“だけでなく、組織全体にさまざまな損失を与えます。
1. 業務がブラックボックス化する
属人化のデメリットの最たるものとしてあげられるのが、業務のブラックボックス化です。具体的な例を上げてみます。
例: 取引先への請求業務は事務を担当している A さんしか手順を知らない。
極端な例かもしれませんが、このような会社があった場合、Aさんが急に休んだときなどは請求業務がストップしてしまいます。
簡単な手順などが書き残されていれば、それを元に代理で業務に当たることができますが、業務のスピードも遅くなりますし、仕事としての品質もばらつきが出ます。Aさんが長期的に休みになってしまった場合にはその影響は小さくありません。
また、Aさんが常に請求業務を行っている場合、その業務のやり方が効率的かどうかはAさんの視点でしか判断できません。
つまり、誰が何をやっているのか第三者から見たときに把握することが難しく、改善が必要かどうかはその人次第ということになります。
2. 成果の品質にばらつきが出る
属人化のもう一つのパターンが、同じ業務をしていても人によってやり方が違っていた。 というパターンです。
Aさんは自分なりのフォーマットで進め、Bさんは別の手順や判断基準で行う。結果として、成果物の品質や正確性にばらつきが生じてしまいます。
そのため、このパターンの属人化を放置したまま、品質向上のために品質チェックの基準を定めたり、チェックの体制をとると非常に効率が悪いです。
よくある例
- Excel台帳の入力ルールが人によって異なり、 「機器名の表記揺れ」「シリアル番号の記載漏れ」が頻発する
- 更新日や担当者欄の記入ルールが統一されておらず、履歴が追えない
- 引き継ぎの際に、「この関数は自分が追加したので消さないで」といった”暗黙のルール”が存在する
- 品質チェックの観点が人によって異なり、結果の判定に差が出る
こうした状態では、成果物そのものの品質を上げる取り組みをしても根本的な改善にはつながりません。なぜなら、業務の進め方が標準化されていない限り、品質の安定は担保できないからです。
非効率の連鎖が生まれる
品質にばらつきがあると、確認・修正の手戻しが増え、次のような悪循環が起こります。
- 各自のやり方が違うため、成果物の品質が一定しない
- チェック作業に時間がかかり、ミスの再発も多い
- 属人化した作業を”補うためのダブルチェック”が常態化
- 結果として、品質維持のためのコストが増大する
つまり、「品質を上げようとしているのに、属人化のせいで逆にコストが上がる」という皮肉な状態です。
この構造を放置したまま、表面的に”品質管理体制”を整えても意味がありません。
3. セキュリティ・監査リスク
属人化した管理体制では、「誰が・いつ・どの情報にアクセスしたか」を追跡できないという根本的な課題があります。
これはセキュリティリスクや、コンプライアンス上の問題につながります。
現場でよくある状況
- Excelファイルを共有ドライブやメールでやり取りしており、閲覧・編集権限が曖昧
- 社員が自分のPCに資産情報を保存し、退職後にデータが残る
- IT資産の台帳が誰によって・いつ更新されたか不明
- 監査対応のたびに「最新版がどれか」を探すのに時間がかかる
こうした状態では、情報漏えいのリスクが高まるだけでなく、内部統制の観点からも重大な問題になります。
なぜ属人化がセキュリティリスクを高めるのか
属人化によって管理者が固定化すると、その人の手元に「全情報へのアクセス権」が集中します。
すると、
- 誤操作による情報削除
- 権限のない第三者へのデータ共有
- 更新履歴の改ざんや不正変更 といった事故が起こりやすくなります。
また、更新ルールが人に依存している場合、パスワード変更やライセンス削除のタイミングが統一されないこともあります。結果として、使用していないアカウントが残り続け、シャドーIT(管理外のIT資産)が増加していきます。
IT 資産管理ツールを活用して、こうした情報を適切に管理するための基盤づくりが必要です。

属人化を解消するためのステップ
属人化を解消するためのステップについて話を進める前に、暗黙知と形式知という2つのキーワードに触れておきたいと思います。
暗黙知は言葉や図では表しづらい知識を指します。例えば、長年に渡ってその業務を通じて培ってきたコツや、当人しか知らないマニュアル化されていない業務の手順やノウハウなどです。
一方、形式知は言葉や図で表せる知識を指します。正にマニュアルがそうです。
暗黙知と形式知に触れたところで、以下のステップで属人化を解消します。
- 暗黙知を形式知に変換する
- 標準化して共有する
暗黙知を形式知に変換する
暗黙知を形式知に変換するためにはマニュアルを作成します。最初から体裁を整えたり、細かいところにこだわったものでなくても構いません。最初はパソコンにインストールされているメモ帳や、手書きで一連の手順を書き出してみます。
手順を書き出す際にポイントとなるのが次の2点です。
- 特定の状況でしか行わないような例外の作業や、ちょっとしたコツがあれば、それも注釈として書き出す。
- 一連の作業のインプットとアウトプットが何か、その次の業務がなにかを明記する。
例外の作業やコツは次のステップの「標準化して共有する」際に、標準化した手順に組み込んだり、社内で共有することで品質の向上に繋がります。インプットとアウトプットがなにか、また次の業務にどうつながるかを明確にすることで、そもそもこの業務は必要なのか、自動化や省力化することができないか、といった改善の余地が生まれます。

標準化して共有する
標準化して共有するというステップは非常に重要で、暗黙知だったものをマニュアルに起こして形式知にするだけでは不十分です。標準化しなければ、人それぞれのやり方がマニュアルになるだけで、デメリットで紹介した「成果の品質にばらつきが出る」という課題が解決しません。
また、形式知を第三者が知ることができないために改善の余地が生まれません。
便利なツール
属人化を解消するための取り組みを行う際に便利なツールがあります。ナレッジツールやチームコラボレーションツールなどと呼ばれるツールです。
これらのツールを使って、チームで共同でマニュアルを作成することで、暗黙知を形式知に変換するステップと標準化して共有するステップを効率良く行うことができます。
最近では AI を搭載したツールも多く、文章作成や情報の検索などを支援してくれます。
Notion
Notion は文書作成やチームでの共同作業などが行える、多機能で柔軟性の高いツールです。Gmail や Google ドライブと言った日常業務で使用している様々なツールと連携することもでき、効率的に情報の整理、集約、共有ができます。

無料プランが用意されていますが、様々なアプリとの連携やより高度なチーム作業、AI 支援を利用したい場合は、プラスプラン以上を選択する必要があります。

esa
esa(えさ)はまずは暗黙知を不完全でもいいので書き出して、形式知にしたものをチームのみんなでブラッシュアップしていく。というコンセプトのツールです。Notion ほど高機能でなくてもよい、ということであればリーズナブルに始めることができます。

マニュアルを書くうえで便利な変更履歴の管理や、過去の状態に戻ることも簡単に行なえます。2ヶ月のお試し期間があり、それ以降の利用料金は1ユーザーあたり500円/月です。

まとめ
属人化のデメリットと解消する方法、便利なツールについてご紹介しましたが、もう一つ付け加えるとすると、取り組む際には予め『毎月、X日の午後はマニュアル作成をする』といったようにチームや会社で取り決めをしておくことをおすすめします。
属人化の解消は、時間も人手もかかるので、ある程度習慣化しないと次第にやらなくなってしまいます。
また、「暗黙知を形式知にするような時間があれば苦労しない」という声もあるかと思います。
しかしながら、今の状況をそのままにし、属人化を放置しておくことはデメリットでしかありません。できるところから少しずつ取り組んでみるだけでも効果的です。

