人手不足や働き方改革が進む中で、日常業務の効率化は避けて通れません。
しかし、「とりあえずツールを導入してみる」「クラウドサービスを比較する事から始める」といったアプローチでは、根本的な改善につながらないことが少なくありません。
例えば、IT資産管理の始め方として Excel で台帳を作成して管理を始めることは手軽にスタートでき良い選択です。しかし、次第に規模が大きくなり、運用が複雑化してくると、Excel 台帳管理から業務の基盤として整備していく必要があります。

Excel 台帳管理での課題が表面化したとき、導入するツールを検討したり仕組みを変える前に、まず重要なのは”現状を正しく整理し業務を再設計する“ことです。
この記事では、業務を効率化するための具体的なステップを紹介し、それぞれのステップでどのような取り組みを行うべきかをご紹介します。
ステップ1|現状整理をして業務の見える化をする
最初に行うべきは、「業務を分解する」ことです。今の流れが本当に最適か、誰が何をどの順番で行っているかを可視化することから始めます。
業務を効率化するうえでこのステップは避けては通れません。無駄な作業や非効率的なやり方が残ったままツールを導入し、仕組み化しようとするとかえって業務が複雑化したり、非効率になってしまいます。
実践のコツ
- 各業務を手順単位で書き出す
例:「申請を受け取る → 内容確認 → 承認 → 登録」など。 - 入出力(書類・帳票・データ)を明確にする
手順を書き出したら、どのような情報をどういった形式で、誰とやり取りするかを明確にします。
例:Excel の申請書をメールで受け取る→印刷し上長に手渡す→上長が押印で承認する→押印した申請書をスキャンしてPDFにする→PDFを申請者に送付→担当者はPDFをファイルサーバーの所定のフォルダに保存→完了 - 例外処理も拾い上げる
→ 特定の顧客だけ別フロー、特定日だけ例外対応、XXの申請は役員の承認が必要、など。
活用できるツール
業務をフローチャートにすると非効率な作業や効率化のヒントが見つかりやすくなります。ここで紹介するツールはいずれも、フローチャートのテンプレートが用意されており、簡単に業務の可視化をすることができます。
- draw.io:無料で業務フロー図を作成できる Webアプリ。

- Miro:チームで共同編集が可能な Webアプリ。無料プランも有り。

業務の整理は手書きでも構いません。重要なのは「業務の流れを見える化する」ことです。
ステップ2|属人化を防ぐ運用ルールを作り
整理した業務を継続的に改善していくには、運用ルールが欠かせません。特にExcel台帳やファイル管理を行っている場合は、ルールが曖昧だとすぐに属人化してしまいます。特に次のルールは事前に整備しておくことをお勧めします。
整備すべきルール
- ファイル名ルール:「YYYYMMDD_資産台帳.xlsx」など一貫性を保つ
- 保存場所のルール:「誰でもアクセスできる共通ドライブに置く」
- 共有方法のルール:「ファイルを共有するときはメールに添付せず、URL を共有する」「コピーしたファイルは読み取り専用とする」
- 更新頻度と責任者のルール:「毎月最終営業日にAさんが更新」
これらを明文化するだけで、管理精度と引き継ぎ効率が格段に上がります。そして作成したルールはしっかりと明文化し、周知することが必要です。
メールでの周知では他のメールに埋もれてしまって見落としてしまう可能性があるため、ファイルを保存しているフォルダに Readme.txt を用意したり、Excel 台帳の1ページ目に使用方法や運用方法を記載したページを用意するといった工夫が必要です。
ステップ1で整理したフローチャートをファイルと一緒に保存して、すぐに見られるようにすることも効果的です。
ステップ3|自動化・可視化を進めて Excel を卒業する
整理とルール化ができたら、次は自動化・可視化のフェーズです。
いきなりツール導入ではなく、「どの作業を自動化すれば効果が大きいか」を見極めましょう。ステップ1で業務を分解した際に、繰り返し行う作業や待ち時間が長い作業、手順が多い作業があれば、削減効果が大きくなります。
また、別のシステムにデータを渡す際に、CSV ファイルでのインポートや API を使った連携、Microsoft 365 の Power Apps/Microsoft Power Automate などでの自動処理が利用できないかを検討しみてください。
手動でファイルの出力、内容チェック、システムへの取り込みといった作業を一気に省くことが期待できます。
代表的な自動化の方向性
- データ集計の自動化:Excelの関数、スクリプトの活用
- 申請・承認の自動化:GoogleフォームやMicrosoft 365 の Power Apps/Microsoft Power Automate などの導入を検討する
- 可視化ダッシュボード:業務状況をリアルタイムで把握できる環境を構築
- システム間でのデータ連携:CSV ファイルでのインポート処理、API 連携
効果測定のポイント
このステップでどのような効果が得られたかを測定する方法を事前に検討しておいてください。
最後のステップで行う見直しの際に、どの程度改善効果・費用対効果があったのか、どういった作業がボトルネックになっているのかを把握できるようにしておく必要があります。
わかりやすい測定方法としては、その作業にかかる時間を計測しておくことです。日次の業務もあれば月次の業務もあるので、適切な間隔で一連の業務に要した時間を計測することをお勧めします。
ストップウォッチで計測しても良いですし、Toggl Track といった便利なツールも無料で利用できます。
削減効果の算出
自動化、効率化を行い、削減できた作業時間から削減金額を算出します。
- 改善前後で作業時間を比較(例:1件30分→5分=25分の削減)
- 年間コスト換算で可視化(例:年間300回=125時間)
→ 時給1800円×125時間=約225,000円削減 - 定期的に見直し(PDCA)し、改善サイクルを回す
この削減効果のポイントは、削減できた金額はそのまま利益にあたるということです。
例えば、製造業の売上高営業利益率の平均は約5.2%と言われています。平均的な利益率の企業で、仮に年間22.5万円の削減効果が実現できた場合、約430万円(225,000 ÷ 0.052 = 4,326,923)の売上増加と同等の効果があります。
ステップ4|PDCA で継続的な見直しを実施する
一度仕組みを作って終わりではなく、定期的に改善することが重要です。組織の成長や人員の入れ替えに合わせて、業務も常に変化していきます。
効率化、自動化がうまくいったことで他の作業や業務にも応用できないか、例外的な作業を平準化できないかの検討したり、より良いツールがないかを検証することも重要です。
改善のヒント
- 毎月・四半期ごとに「更新会議」を設定
- 新しい課題・例外処理を都度整理
- 必要に応じてツールの見直しを検討
まとめ
Excelは「見える化・共有化の入口」として非常に有用です。しかし、Excelのままでは属人化や更新ミスのリスクが残ります。
多くの企業が「ツール導入=効率化」と考えがちですが、本当に重要なのは、ツールを入れる前に「何をどう改善するのか」を明確にすることです。
Excelや紙で管理している現場こそ、まずは業務を整理し、共有ルールを作るところから始めましょう。ぜひ、この4ステップを実践して業務の改善をしていただきたいと思います。
効率化の4ステップ
業務の分解と整理を行う
保存や共有のルールを策定し、イレギュラーな作業、運用を減らす
作業の自動化、可視化を検討する
ステップ1〜3を繰り返す。他の業務にも応用できないかを検討する。
この流れを踏むことで、属人化から脱却し、持続可能な仕組みづくりが実現します。

